Spin the Black Circle

アナログレコード鑑賞記を中心に、映画や本など興味の向くままに語る、40代オヤジの独り言

スポンサーサイト

--.--.--

category : スポンサー広告

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

極私的トニー・ヴィスコンティ:その3

2013.01.26

category : シングル盤

わたしがトニー・ヴィスコンティの手掛けた作品で最も好きなのは、彼がまだ駆け出しの頃にアレンジした、この曲です。

Something by The Move on Grooveshark 


The Move : Something

Is there something that you've wanted
それが、君がずっと求めていた何か
More than anything
他の何よりもずっと
Something you took for granted
君がそれだと決めていた、何か
Never stop to think
考えるのを止められない

Suddenly it's there in your eyes
突然、それは君の瞳の中に
Suddenly you can recognize
突然、気付いたもの
That something
その何か
That certain something
その確かな何かを

Do I want you
僕は君を求めているのか
Oh do I want you
求めているのだろうか
More than anything
他のどんなものよりも
Did I love you
君を愛しているのだろうか
Oh did I love you
ああ、愛なのだろうか
Never stop to think
考えるのを止められない

All my life I've wanted one thing more
生涯ずっと、僕はひとつのものをずっと求めてきた
All my life I've been searching for
生涯ずっと、探し求めてきた
That something
その何か
That certain something
その確かな何かを

Oh no no no
ああ、駄目だ
It’s not like that at all
決してそんな風じゃない
Oh no no no
ああ、違うんだ
Not as I recall
思っているのとは違う

Is there something that you've wanted
それが、君がずっと求めていた何か
More than anything
他の何よりもずっと
Something you took for granted
君がそれだと決めていた、何か
Did you ever stop to think
考えるのを止められたことがあるかい

All my life I've wanted one thing more
生涯ずっと、僕はひとつのものをずっと求めてきた
All my life I've been searching for
生涯ずっと、探し求めてきた
That something
その何か
That certain something
その確かな何かを

- Dave Morgan -

プロデューサーのデニー・コーデルにその才能を買われ、生まれ育ったブルックリンからロンドンに移り住んだのは、1968年のこと。コーデルのアシスタントとしてアレンジなどの仕事をこなしていたその時期に、ザ・ムーヴの'Something'は録音されました。

ザ・ムーヴといえばロイ・ウッドですが、この曲は当時のヴォーカルだったカール・ウェイン絡みで取り上げることになった、デイブ・モーガンというソングライターのもの。モーガンはスティーブ・ギボンスと一時期接点があったり、後にELOにギタリストとして参加したりします。

この'Something'は、3種の録音が公式に発表されています。まずは、アルバム"Shazam"のCDボーナスで発表された、デモヴァージョン。ここではまだギター主体のファンキーな演奏で、後半ではロイ・ウッドのものと思われるブルージーなギターソロがフューチャーされています。この盤では何故か、'That Certain Something'と曲名がクレジットされています。

ふたつめのヴァージョンは、2008年に発売されたボックスセット"Anthology 1966 - 1972"に収録された、ピアノが主体となったラフ・ミックス。ここではまだオーケストレーションがありませんが、かなり発表されたものに近くなっています。エンディングはピアノの連弾が長く続きます。

そして、シングル'Blackberry Way'のB面として発表されたヴァージョン(厳密に言うと、このヴァージョンにもステレオとモノの2種類があり、ステレオ・ヴァージョンのほうがエンディングが長いです)。ここではトニーヴィスコンティによるオーケストレーションが加えられ、より華麗で、創玄な音世界となっています。ここで聴かれる弦のアレンジは、後のボウイなどの仕事にも繋がる、まさしくトニー印の音が聴かれます。

それにしても、このストリングスの優美なこと。ヴォーカル・パートの終わりを受け、その印象的なフレーズでエンディングを盛大に盛り上げます。自己主張が強いながらも、決してメロディやサウンドと対立することなく、曲の素晴らしさを更に引き立てています。あっという間にフェイドアウトしてしまうのが、本当に残念です。いつまでもこのフレーズを聴いていたいのに…。某バンドが某曲でこの曲のエッセンスを巧みに取り込んでいましたが、そうしたくなるのも分からなくない、本当に魅力的なストリング・アレンジです。

'Blackberry Way'も当然ながら名曲だと思いますが、'Something'はその影に埋もれさせるには惜しすぎる、隠れた名曲です。その名曲の立役者のひとりとして、トニー・ヴィスコンティの名はわたしの中で輝き続けます。


tmst.jpg








スポンサーサイト

comment(0)  trackback(0)

The Troggs : I Can't Control Myself

2012.10.07

category : シングル盤

少し前に、このシングルを入手しました。

iccm01.jpg

The Troggsの'I Can't Control Myself'です。

元The KinksマネージャーのLarry Pageが設立したレーベル、"Page One"の1枚目のシングルとして発売されました。真っ赤なレーベル・デザイン、そしてロゴを大きくデザインしたカンパニー・スリーブ、カッコいいですね!

iccm02.jpg

'I Can't Control Myself'は'Wild Thing'(全英2位)、'With a Girl Like You'(1位)に続き、1966年10月に全英2位を獲得しました。ちなみにその時の1位は、Four Topsの'Reach Out I'll Be There'でした。モータウンはUKでも人気だったのですよねぇ。

"Ba-Ba-Ba"コーラスは前作'With a Girl Like You'でも象徴的でしたが、ここでは更にキャッチーさを増してます。ビートを強調したリズム、思わずテンション高くなる素晴らしいサウンドです。

しかし、何と言ってもこの曲の魅力は、エロ顔のヴォーカルReg Presley作による、エロさ前回の歌詞でしょう!真面目と不真面目の2種で訳してみました(不真面目ヴァージョンはPCでは隠してあります)。



I Can’t Control Myself

Oh no!
もう、駄目だ!
ああ、たまらんわ!

I can't stand still 'cause you've got me goin'
じっと立ってもいられない、君が僕を軟弱にする
お前のプレイで、腰砕けやねん
Your slacks are low and your hips are showin'
股上短いスラックスで、君のお尻が見えてる
何やその短いパンツは、ケツ見えとるやん
I thank you girl as you're standing there
そこに立ってる君、ありがとう
ええもん見してくれて、サンキューやで
Your low-cut slacks and your long black hair
股上短いスラックスに、長い黒髪
股上短いスラックスに、長い黒髪
I want you going, I want no one else
行ってくれないか、もう誰も必要じゃない
どっか行ってくれんか、もう誰かとかいらんねん
'Cause when I'm with you I can't control myself
だって君といると、僕は歯止めがきかないんだ
何でかって、お前とおったら辛抱たまらんねん

Defence is down and you got me shakin'
守りがきかない、君に揺さぶられて
もう我慢できん、そんな揺さぶりよって
You got me so that my nerves are breakin'
君のせいで、僕の心はめちゃくちゃ
そんなことしたら、おかしなってまうわ
If you knew me like I know you girl
僕のように、君が僕を知っててくれたら
お前も俺みたいに、俺のこと分かってくれんかの
Your knees would bend and your hair would curl
曲がった膝に、カールした髪
曲がった膝に、カールした髪
You make me move, yeh, like no one else
グッとくる、他の娘にはないね
ホンマたまらんわ、絶品やの
And when I'm with you I can't control myself
君といると、僕は歯止めがきかないんだ
お前とおったら、ホンマ辛抱たまらんわ

I've got this feeling that's inside of me
心の中にある、この感情
俺の中の、この気持ち
It makes me think of how things used to be
前はどうだったかな、って考えさせられる
知る前はどうやったかの、って考えさせるわ
It makes me feel alright
大丈夫、って気分になるんだ
やっぱ気持ちええわ
When I'm with you at night
一緒に夜を過ごす時は
お前との夜はな
And we love
僕ら、愛し合うんだ
やってやって
And we love
愛し合うんだ
やりまくるねん

You fill me so with this big temptation
おっきな誘惑で、僕の心は一杯
めっちゃ誘いよる、頭そればっかりになるわ
This kind of feeling could move a nation
こういう気分が、国を動かしてるんだね
やっぱこれで世の中成り立っとるわな
But I'm ok when I'm here with you
でも君と一緒なら、僕はオッケーさ
まあ俺は、ここでお前と一緒ならええわ
I do the things that you want me to
君が欲しいもの、僕にはあるんだ
お前も、俺のがいいんやろ
I do these things for no one else
他の奴にはないものがね
他の奴のじゃダメやろな
But when I'm with you I can't control myself
でも君といると、僕は歯止めがきかないんだ
ちゅーても俺も、お前とやる時は我忘れとるけどな

I can't control myself
歯止めがきかないんだ
持ってかれてまうわ
I can't control myself
歯止めがきかないよ
気持ちよすぎるわ
I can't control myself baby
歯止めがきかないんだ
ホンマ辛抱たまらんわ

- Reg Presley -

いやあ、なかなかのエロっぷりですね!

後にJoan JettやBuzzcocks、そしてRamonesにもカヴァーされましたが、キャッチーなメロディだけでなく、このエロい歌詞に惹かれてのカヴァーだったのでしょう。

B面はLarry Page作による、'Gonna Make You'。



ジャングル・ビートを主体にしたナンバーですが、ドラムは通常の4ビートなのが、どこか不安定な雰囲気を醸し出しています。これもなかなか興味深い演奏ですね。

iccm03.jpg



comment(0)  trackback(0)

The Wind Cries Mary

2012.06.07

category : シングル盤

 The Jimi Hendrix Experieceの'The Wind Cries Mary'、この愛してやまない名曲のリアルな音を求め、購入したUK盤アルバム"Smash Hits"の音は、その期待を粉々にする悲しいものでした。

 その失望は、わたしの中の「UK盤神話」を砕くものでもありました。UK盤だからといって、総じて音が良い訳ではないのだ。The Beatlesなど、鮮度の高い音が当たり前に思っていたのが、それには例外があるのだと。

 そんながっかりしたわたしに、一筋の希望がまた生まれました。シングル盤なら、もっとリアルな音なのかもしれない。そんな希望が生まれたのは、UK盤シングル'Purple Haze'を入手し、その音に接したからです。

 その音の生々しさを、どうやって言葉にすればよいのか。特に低音の迫力、その脇腹に食い込むようなバスドラ、そしてドリルのように脳に刺さるギター、これこそわたしが求めていたリアルさです。これなら、オリジナル・シングルで聴けば、'The Wind Cries Mary'も大変な音が詰まっているにちがいない、そう思ったのです。

 という訳で、入手したのがこの盤です。

JHE WCMUK

 'The Wind Cries Mary'、UK、Track盤です。マトリックスは"A//1"、正真正銘のオリジナル・シングルです。ここにはきっと、求めている音がある筈。そんな期待は、またも打ち砕かれます。

 ああ、なんだこの音。アルバム"Smash Hits"はもう手元にないので、比較が出来ませんが、やっぱりこれは酷い音だ。音が悪いというより、遠いのです。これもまた、対岸のラジカセの音です。何だか音がのっぺりして、薄いのです。ああ、'Purple Haze'があれほど良くて、どうしてこの曲はこんななのか。納得が行きません。ちなみに、フリップサイドの'Highway Chile'(これもカッコいい曲ですね!)は、更に醜い、擦り切れ寸前のカセットテープで録音したような音です。なんなんだこれ。

 この音には、本当に絶望されられます。恐らくその失望は、大雨の中スカイツリーに昇り、灰色の世界を見た人々の絶望に匹敵するでしょう。

 一体この音の悪さが、どこから来ているのでしょうか。"Smash Hits"の音の悪さを考えると、この時期の録音に問題があったのかもしれません。録音されたDe Lane Lea Studiosの問題なのでしょうか。確かに、'Purple Haze'はこのスタジオと、Olympic Studioで録音されていますので、その違いが音に出ているのかもしれません。しかし、USのステレオ盤に音の悪さを感じなかったこと、他のアーティストの録音に問題を感じないことを考えると、スタジオの問題ではなさそうです。ということは、モノ・ミックスのミキシングか、マスタリングの作業に何か問題があるのかもしれません。

 ああ、'The Wind Cries Mary'に関しては、現行のCDで聴くのがベターなのかなあ、と悲観に暮れていましたが、1枚のシングルで多少救われた気分になりました。

 それはUSシングル、'Purple Haze / The Wind Cries Mary'です。

JHE WCMUS

 この英国シングル2枚をカップリングした、贅沢なシングルですが、アメリカでは65位と低調な結果で終わっています。不思議なものですが、アルバム"Are You Experienced"は5位とヒットしていますので、アルバム・アーティストとしての認知が既にあったのかもしれません。

 そしてこのシングルで聴かれる'The Wind Cries Mary'は、意外にもリアルな音を鳴らしてくれます。最高ではないですが、少なくとも対岸の音ではなく、河に浮かぶ船のスピーカーから鳴っている様な、やや近い音だと感じます。ああ、これならまだ納得のいく音です。スネアはクリアに響きますし、ギターも濁ったようなUK盤とは違い、素直に響きます。

 レコードを色々聴いていて思うのは、アーティストの原産地(又は録音地)の盤が、もっともリアルに音が響くということです。日本盤が音がいい、という幻想はとっくの昔に消えましたし、UK盤至上主義のような幻想も消えました。アメリカ盤は確かに大雑把な音が多いですが、アメリカのアーティストにはその音が合っているケースが多いように感じます。その国でカッティングされた盤が、一番納得の行く音が出るという風に思うのです。

 そんな中、アメリカ出身のアーティストによる、UK録音のこの盤、アメリカ盤のほうがリアルな音がするという、不思議な結果になりました。何事にも例外はある、ということでしょうか。本当に、アナログ盤は奥深い、底なし沼のような世界です。

 ちなみに、'Purple Haze'はUK盤のシングルが圧勝でした。なんだかなあ…。


JHE PHUK

JHE PHUS

comment(0)  trackback(1)

The Jimi Hendrix Experience : Smashi Hits (UK Track)

2012.05.31

category : シングル盤

 60年代のUKシングルには、やはり特別な空気感があります。あの時代、あの空気の中で鳴っていた音だという感触、音を鳴らせばその空気が部屋に充満するような気がするのです。これはアメリカ盤や、他の時代のステレオシングルなどでは、あまり味わえない感触ですし、LPよりはEPのほうが、その空気感を何故か強く感じる気がします。

 そんな60sUKシングルを、モノ針で聴いてみようという方におススメしたい盤が3枚あります。"The Rolling Stones : Not Fade Away"、"The Beatles : Paperback Writer / Rain"、そして、"The Jimi Hendrix Experience : Purple Haze"です。

 この3枚はどれも当然ながら名曲、名演ですが、既存のCD音源とのギャップ、その空気感の詰め込まれ方に驚愕した盤です。CDというのは残念ながら、決定的に何かが欠けている、と思い知らされた盤でもあります。どれもヒットした盤ですし、海外のネットオークションであればそれ程高値でなく手に入ると思いますので、アナログ初心者には是非おススメしたい盤です。

 そんな驚愕の盤のひとつである"Purple Haze"ですが、Jimi Hendrixには逆の意味で驚愕だった盤があります。"The Wind Cries Mary"のUKシングルです。

 アナログに回帰しだした数年前、もっともオリジナル盤でその世界を味わいたかった曲のひとつが、この"The Wind Cries Mary"でした。Jimiの曲の中でも最も好きな曲、この静謐さの中にうねるギター、まさに風が荒く吹いたり、おさまったりといった空気感を感じさせるこの曲を、もっとリアルな音で味わいたかったのです。

 そう思って購入したアルバムが(最初はあまりシングルに関心がなかったのです)、ベスト盤の"Smash Hits"です。

 このアルバムは、もう手元にはありません。何故なら、このアルバムの音は、ものすごくリアリティの薄い音だったのです…。

 UKのモノラル盤、オリジナルのTrack盤、チリノイズなどの盤質の問題はあるかもとは覚悟していたのですが、そこに刻まれている音自体が悪いとは、よもや想像もしませんでした。しかし、そこから聴こえてきたのは、川岸の向こうで誰かがラジカセで流しているかのような、どうしようもなくぼんやりとしたものでした。初めて音を聴いた時に、失望のあまり呆然としたことを思い出します。そして、この盤は躊躇することなく、売却しました。

 念のため申しますが、60年代のUK盤で、盤質ではなく音自体でこんな失望を味わったのは、いまのところこの盤くらいです。例えばThe Kinksの悪名高いライブ盤のように、元々録音自体が悪いものは、別にオリジナルも音が悪いのは当然です。しかし、CDの音よりも、オリジナルの盤が明らかにリアリティが薄いというのは、相当なショックです。

 CDのマスタリングで音が良くなったのでは?という意見もあるでしょう。確かに多くの盤が、CD再発のリマスターによって音が良くなっています。しかし、オリジナルよりもより空気感を増しているというリマスターには、わたしは今のところ出会ったことがありません。やはりオリジナル盤には、オリジナル盤が醸し出すその時代の空気感があります。それは残念ながら、マスターの劣化などで少しずつ失われるものでしょうし、音をブラッシュアップしたからといって取り戻せるものではないように感じます。だから多くの人が、オリジナル盤にこだわるのでしょう。

 しかしながら、この"Smash Hits"のオリジナル盤は、本当につらかった。わたしは大した機器で聴いていないので、この盤をパーフェクトに再生できる環境が、この世のどこかにあるのかもしれない。わたしの売った盤が、そんな素晴らしい方の元で聴かれているといいのですが。

 "The Wind Cried Mary"のシングルについて書こうと思ってたのですが、ちょっと"Smash Hits"で長くなってしまいました。この話は次回に続きます。


JHE SH UK

※写真だけ残してました。合掌…。



comment(0)  trackback(1)

Jackie Wilson : (Your Love Keeps Lifting Me) Higher and Higher

2012.03.03

category : シングル盤

 James Brown、Sam Cookeと並んで、Jackie Wilsonはソウル・ミュージックのパイオニアとして称されることが多い、重要なシンガーです。しかし、前の二人と比べ、彼の評価は圧倒的に低いように思います。そこには二つの要素が挙げられるように感じます。

 まずは曲が作れなかったこと。JBやSam Cookeは、歌唱力に優れているのみならず、自ら曲を書き、そしてプロデュースまで行える、卓越した能力がありました。それによって、自らの魅力を最大限に引き出す術を、自ら編み出していけたという部分がありました。
 それに比べ、Jackie Wilsonはただひたすらにシンガーであり、時代を見据え、それを自ら総合的に表現するという能力では、やはり劣っていたと言わざるを得ません。

 そしてもうひとつは、その歌唱が旧然したエンターテイメント的寄りであったこと。ここも評価が厳しくなる部分かと思います。そういう意味ではSam Cookeに近いのですが、彼のような柔軟性、そして社会的なメッセージ性には乏しく、その部分はかなり評価を落とす部分なのではないでしょうか。

 というネガティブな話から始めましたが、わたしにとっては、Jackie Wilsonは前二人以上に、とても大切なアーティストです。

 といいつつも、わたしもキャリア前期(ニューヨーク時代)の、ブロードウェイ的なエンターテイメントな録音は、それ程好きではありません。まあこれは好みの問題で、クオリティは総じて高いので、もう少し年を重ねれば好きになってくるのかもしれません。
 それ以上にわたしにとって大切なのは、キャリア後半のシカゴ時代、シングル'Whispers'や'Higher and Higher'で復活を遂げ活動の中心をシカゴに移すも、世間からはどんどん忘れ去られてゆく時代の録音。この頃の楽曲は、本当に素晴らしくてたまりません。
 それはその頃のレーベルのサウンド、Carl Davisが中心となり、Sonny SandersやTom Tom、そして Eugene Recordなどがモダンでグルーブのあるサウンドを醸し出していた、あのサウンドが好きというのもあります。そのサウンドに乗るJackie Wilsonの伸びやかなヴォーカル、そこには芳醇な音世界があります。

 そんなキャリアの転換期にヒットとなり、彼のキャリアのピークのひとつ、そしてヒットチャートという華やかな舞台での最後の輝きが、前述した'(Your Love Keeps Lifting Me) Higher and Higher'です。


このヒット曲は、Gene ChandlerやThe Impressionsで実績を上げてきたプロデューサーCarl Davisの、Brunswickでの最初期の仕事の一つです。ここで彼が行ったのは、異なる都市で花開いていたソウル・ミュージックのエッセンスを融合することでした。

 まずはCarl Davisの活動拠点であるシカゴ。'Higher and Higher'は、シカゴを拠点とする名門レーベルChessに在籍するスタッフ・ライターにより、レーベル所属のThe Dellsの為に書かれ、レコーディングされた曲でした。その曲をいち早く聴き、彼はこれをJackie Wilsonで録音することを思い立ちます。

 そしてデトロイトより、下記のミュージシャンがこの曲のバックトラックの録音用に、呼び寄せられます。

Robert White (Guitar)
James Jamerson (Bass)
Johnny Griffith (Keyboard)
Richard "Pistol" Allen (Drums)

 スポットライトの当たらない、スタジオ・ミュージシャンに光を当てた秀逸なドキュメンタリー「永遠のモータウン」で語られたように、このセッションに呼ばれた上記4人は、当時ヒット工場と化したレーベル、Motownから密かにやってきた面々でした。彼らはそのヒット・サウンドを再現(悪く言えば盗用)する為に、Motownの倍以上のギャラに釣られ演奏しに来たのです。
 ヒットサウンドの量産という重労働から解放されたからか、彼らのここでの演奏は、伸び伸びとした喜びに溢れた演奏に聴こえます。そして本家Motownのサウンドが、ある程度のエコーでコーティングされているのに反し、この曲では個々のプレイがしっかりと聴き分けられるナチュラルなミックスで、印象的なベース・プレイや小刻みなドラムのフレーズなど、その演奏の卓越さがより堪能出来ます。
 特に印象的なのは、イントロから現れるベースのフレーズ。オリジナルのThe Dellsのヴァージョンを聴くと明確ですが、このフレーズは明らかにこのセッションで追加されたもの、恐らくJames Jamersonのアイデアではないかと想像されます。

 そんな鉄壁のバックトラックに乗るのは、当時まだレーベルと共にニューヨークを活動拠点にしていた、Jackie Wilsonのヴォーカル。最初はブロードウェイ・スタイルの淡白なヴォーカルだったようですが、Carl Davisの駄目出しを受け、パンチのあるシャウターとしての熱気漲るヴォーカルをものにしました。

 そんな、「シカゴ」「デトロイト」「ニューヨーク」という、当時重要だった音楽の聖地3つがブレンドされ、このシングルは完成しました。そしてBillboardのR&B1位、総合6位というヒットを受け、低迷していたJackie Wilsonは再び最前線へと返り咲きます。
 そして、活動拠点をシカゴに移すのですが、その人気はジワジワと後退してゆき、そして…。というような続きの話は、また別の機会にでも。

 わたしがこの曲を始めて聴いたのは、前述したThe Dellsのヴァージョンでした。それが収められたアルバム"There Is"を先に聴いた記憶があります。
 その充実した内容の中では、この曲はそれ程重要な曲には聴こえません。重厚なバラード'Stay In My Corner'や、圧倒的なグルーブの'Wear It On Our Face'と比較すると、どうにも弱い曲に聴こえました。
 しかし、何となくその本家(このアルバムより、Jackie Wilsonのシングルの方が先に世に出ています)が気になって、Jackie Wilsonのヴァージョンをベスト盤を買って聴いてみてビックリしました。これは素晴らしい!

 この曲の何が、そんなにわたしを感動させたのか、それを時々考えます。しかし、当然ながら、それは明快に答えが出るものでもありません。「メロディが」「リフが」など明快な答えを当てはめ易いロック・ミュージックとは違い、ブラック・ミュージックはどうしても音の奥にある部分、サイババに内臓に手を突っ込まれたような、そんな理屈で言い切れない部分で揺り動かされ、感動を覚えているように感じます。

 それでもあえて挙げるなら、この曲の独特のグルーブ、掘削機でゴゴゴゴとアスファルトに穴をあけるかの、ロック・ミュージックのグルーブとは違う、ボディにフックを食らい続けているかの、ファンク・ミュージックのグルーブとも違う、どことなく少しだけ地面から浮いているかの、その軽すぎないグルーブ感、ギターがリズミカルに刻み、スネアは適度な重さで叩かれ、そしてベースは少しずつ登ってゆく坂道のように、少しずつ高みに連れていってくれる、そんなグルーブに惹かれたのだと思います。

 そしてこの曲には、やはりJackie Wilsonの声でないと駄目なのです。彼特有の濃すぎない粘り、それがこのちょっとした浮遊感のあるサウンドには必要なのです。

JW HH

 このシングル盤で聴かれるのは、当然ながらモノラル・ヴァージョンです。これが本当に素晴らしい。全ての音が一丸となって、自らの中に流れ込んでゆくような感動が、ここにはあります。
 このモノ・ヴァージョンは不思議なことに、フェイドアウトではなく、フルエンディングで終了します。というか、一応フェイドアウトはしてゆくのですが、その途上でバックトラックは突然終止し、ヴォーカルの掛け合いのアカペラ状態がほんのちょっと続いて、ブチッと切れるという、何か適当な終わり方をします。そのいい加減さも、60年代っぽくてイイ感じです。

 この盤を入手したのは何年か前、手元に届いた直後に、Bruce Springsteenがこの曲をライブで復活させ(彼は77年に限定的にこの曲を演奏しています)、そのシンクロにビックリしました。
 Bruceのヴァージョンは、転調を上手に活用したりし、ライブ映えする良いアレンジだと思います。しかし、わたしには原曲を超えるカヴァーなどありえません。例え敬愛するBruceとはいえ、そこは譲れないところではあります。

 とはいえども、この曲をライブで聴けるのは、きっと至福の時間でしょう。いつまでもこのホーンのメロディが続いてほしいと、その場ではきっと思うことでしょう。
 今回のツアーにホーン隊が参加していることを考えると、今年もこの曲が頻繁にステージで聴けるだろうと想像しています。この高らかなホーンが、この日本の地で鳴り響くことを、願ってやみません。





comment(2)  trackback(0)

Copyright ©Spin the Black Circle. Powered by FC2 Blog. Template by eriraha. Photo by sozai-free 2000px.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。